天然学 - 天然の本質に迫れ

天然について誰よりも深く研究します。

天然実録06 電話対応

新入社員だった時だ。同期に天然がいた。以下Tとする。

その職場はよく電話がかかってくる。あまりに電話が多いので職員ひとりずつに受話器の子機が配布されるほどだった。

電話対応は新人の重要な仕事だ。自分宛ての電話なら普通に出ればいいのだが、厄介なのは他の人に向けた電話を取った時である。外回りなどで当人が不在の時は、要件を受けて本人に伝達しなければならない。

 

ある日、同期Aが昼食を買いに席を外しているときにAの電話が鳴り、最初に彼の子機を手に取ったのが天然Tだった。

 

T「はい、代理で電話を受けたTでございます。」

 

T「Aさんですね。ただいまAさんはいないであります。」

 

T「はい、帰ったら折り返すように伝えます。ありがとうございました。」    

 

いないでありますって、警察官かよ。

本官は警察官であります。

留守にしていますとか、席を外していますとか、言い方はあろうものだが、まさかの発言に思わず笑ってしまった。

 

あと個人的に好感度が高かったのは、ありがとうございましたの時に深々とお辞儀をしていること。テレビ電話ではないのでお辞儀が向こうに伝わることはないのだが、その心意気やよしだ。そういう誠実さが愛され要因なんだろうと思う。

 

 

 

 

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天然実録05 カレイライス

休日に急にお腹の調子が悪くなって、救急外来を受診した時のこと。

 

診察室に入ると学校の教室くらいの空間にベッドがいくつか並んでいて、奥の方に一人だけ別の人が寝ていた。その人とは反対側のベッドに誘導されベッド前の椅子に腰かけると、看護師さんが後ろに立ち正面にお医者さんが座り問診が始まった。

 

その日の担当はおそらく20代と思われる、やや細身で丸メガネをかけた真面目そうな男のお医者さんだった。

いつから痛いのかとか、下痢はあるかなどの基本的な質問から始まった。腹痛となれば食中毒などは当然可能性としてあるわけで、食事についても聞かれた。

 

「最後の食事は何時に何を食べましたか。」

「昨夜20時に定食屋に行ってカレイ ご飯 味噌汁を食べました。」

「カレーライスと味噌汁ですね。」

「いえ、カレーライスではなくカレイです。」

「ライスじゃないカレーですか。むむむ。」

 

そして数秒間の沈黙ののちハッと目を見開いて、

 

「ああ、カレーじゃなくて魚の方のカレイですか。」

 

お医者の頭上にピコーンと光る電球を幻視し、後ろにいた看護師さんたちは大爆笑。こっちまでお腹の痛いのも忘れて笑ってしまった。なんか診察室が和んだわ。

 

医者は一瞬バツの悪そうな顔をしたもののすぐに気を取り直し、水をいつ飲んだかの質問を始めた。この辺の切り替えの早さはさすが天然と言うべきかさすが医者と言うべきか。

 

ちなみにその後入院、最終的には手術までする羽目になったというちょっと笑えないエピソードがついてきたりもする。

 

あれ、前回に続いて天然の医者の話になってしまった……

 

 

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やっぱり天然はドジだった

前回は、「天然はアホじゃない。頭いいんだぞ。」というお話でした。今回は「天然はやっぱりドジでした。」というお話です。

 

天然のドジは小さなミス

どんなに頭がよくても、天然の人ってたいていちょっとドジ。何もないのにひとりで勝手につまずいたり、電車に傘を忘れてきたり、取るに足らない小さなミスが多いです。もはやドジでない天然はいないんじゃないかと思うほど、天然のドジっ子エピソードは豊富です。

しかし長く観察していると気づくことがあります。彼らは小さなミスしかしないのです。人生が終わってしまうような致命的なミスは決してしないバランス感覚を持っています。

例えるなら、車を運転していて電柱にぶつけることはあっても人をはねることはない運転手、みたいな感じです。電柱は止まっていて人は動くのに、動かない電柱にだけぶつかる、しかも時速40キロで突っ込むのではなく、時速5キロでこするイメージです。

 

キーワードは危機感

彼らはどうして小さなミスだけで済むのか。もちろん、かわいいドジっ子キャラを演じているからではありません。

まず、天然の人だって大きな危険が想定されるときは慎重に行動します。だから大きな失敗は回避します。

問題はそこまで危険ではないときです。多くの人は小さなミスにも敏感です。つまずかないように自分の体の制御に気を配り、電車に忘れ物がないように確認作業を怠りません。

ところが天然の人はこういう小さなミスに対して危機感が薄い傾向にあり、それよりも自分の興味があることに没頭します。そのため思索にふけっていてつまずいたり、読書に夢中で傘を忘れてきたりします。

運転手で例えるなら、人をはねないように細心の注意を払っていたが電柱は気にしていなかった、といったところでしょうか。

 

案外ドジもよい

彼らの理屈がわかったとしても、身の回りの親しい人が天然のドジっ子だとイライラするかもしれません。

こんなとき叱責は効果薄です。彼らは危機感の基準が少しずれているだけ。彼らにとっての些末なことをギャーギャー言われるのは不快です。

例えば「転ばないようにアスファルトの細かい凹凸に気を配れ。そんなこともできないのか。」と神経質な人に言われたらあなただってゲンナリでしょう。1センチ程度の細かい凹凸なんてたかがしれてるし、そのくらい見逃しても危険はないですが、中にはちょっと大きなへこみがあって足を取られるかもしれません。天然の人は注意すべきへこみの大きさがふつうの人よりも大きく、ふつうの人が10センチで危機感を覚えるところで20センチまで気にしない、ただそれだけのことです。

むしろ天然ドジは、おおらかな性格と評価しましょう。細かいことばかり気にする人よりもおおらかな人のほうが過ごしやすいです。おおらかさの現れとしてのミスだと思えば、ちょっと気分が晴れますよ。

特に実害のないミスならば、笑える小話になります。

天然「風が吹けば桶屋が儲かる」

優秀なのに天然、そんな人がいます。なぜあんなに頭がいいのに発言は変なのか、なぜその優れた知性を常識を学ぶことに使わないのか。色々と不思議ですが、今回はとりわけ「謎発言」に焦点を当ててみましょう。

 

天然な人の発言は、一見すると関係ないけれど本人の頭の中では繋がっているために起こります。

 

風が吹けば桶屋が儲かる

突然ですが、「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざをご存知でしょうか。江戸時代のことわざで、

風が吹くと砂が舞って人々の目に入る。

目に砂が入った結果、失明する人が現れる。

失明した人は生計を立てるため三味線をひく。

三味線を作るのにネコの皮が必要なので、ネコが狩られる。

ネコが減りネズミが増える。

ネズミが桶をかじる。

困った人々が桶を買うので桶屋が儲かる。

注)当時三味線をひくことは、目が見えなくてもできる数少ない職業だった。

 

風と桶屋の儲けのように、一見関係がないことも実は繋がっているんだ、という意味のことわざです。

 

天然は高速版「桶屋」

さて、頭の回転の速い天然の人たちの中でも同じことが起こっています。意外ですが、彼らは彼らなりにちゃんと考えているのです。それどころか彼らの思考速度はとても速く、時には新発想も生まれています。

 

それはさながら桶屋のことわざのよう。風が吹いたときに「桶屋が儲かりそう」なんて言い出せば変な人ですが、彼らは風が吹いた瞬間に「風→砂→目→三味線→ネコ→ネズミ→桶」と超高速で連想を始め、瞬時に桶屋が儲かるという結論に到達します。

 

一方で聞き手は彼らの思考速度に追いつけなかったり、あるいは彼らの斬新な発想についていけなかったりするため戸惑うことになります。彼らが思考過程を明かさないこともあり、それは理解不能な発言に聞こえます。かくして天才な発言は聞き手により天然な発言に認定されるのです。

 

実際に天然発言を詳しく追究すると、1度は「なるほど、そういうことね」となります。もっとも、多くの場合はその上で「いや……待って。砂ぼこりで失明はさすがに無理があると思うよ。」とツッコむまでがお約束の展開です。それっぽく聞こえるけれどどこかズレた感性が天然らしさに溢れています。

天然実録04 頭のよい天然

天然とアホとは違うというが、優秀な天然として名高いのはやはりHさんだろう。天才、高学歴、天然と3拍子揃った人だ。

 

Hさんはまさに天才と呼ぶにふさわしい才能の持ち主だった。高校時代は成績上位の常連で、体育さえなければオール5と言われていた。しかも勉強ばかりのいけ好かないガリ勉とは違う。

まずHさんは説明が上手い。理科や数学の難しい話を簡単な例え話にして理系アレルギーの人に伝える能力は圧巻だ。

発明力もあって、部屋の収納革命からコピーが簡単なノート開発までやってしまう。

性格は温厚。隠キャとも陽キャとも交流するオールラウンダーである。先読みの力を活かして後方支援に徹するマネージャータイプで、なにかと頼りにされていた。

HPはHさんパネェっすの略だとする珍説が生まれるほどの逸材は、その知能を生かして東京の医学部に進学し、大学でも単位を落とすことがないという。

 

一方で何もないところでつまずく、財布を忘れて買い物に行く、メガネをかけていながらメガネがないといって探し回るなど、教科書に載るようなド定番のボケをかます。本人も天然と言われていることは知っていて、「天然の人の特徴9つ」という記事を読んだときには「うわあ、全部当てはまってる。」と嘆いていた。

最近はコミュニケーションにおいて「Hさんワールド」を展開しているようで、同僚には「間違いなく優秀だがちょっと面白い人」と評価されている。

 

 

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天然とアホの子

天然とアホの子は一見してよく似ています。どちらもちょっと抜けているところがあったり、常識はずれな行動が見られたりします。ただ同じような見た目をしている割に中身はずいぶんと違います。特に差がつくのは行動の背景にある思想です。以下を読めば、天然とアホの子はかなり別の生態だと分かるでしょう。

アホの子とは

厳密に定義するわけではないですが、ざっくりといえば「頭の悪そうな行動が多く、そこに不思議と魅力を感じる人。知性は低い。」創作物には比較的よく登場する印象がありますね。詳しくは、アホの子を研究した良質な情報を見つけ次第リンクします。

アホの子は頭が悪い

何はともあれ、アホの子で外せないのは頭が悪い、アホであることです。彼らが変なのはアホだからです。ここは重要です。

天然は頭が悪い必要はないです。確かにアホゆえに不思議な行動をする天然の子もいますが、アホでなくても天然は成立します。深謀遠慮の結果としてイミフな行動を取ることもあります。テストで満点をとる天然はいても、テストで満点をとるアホの子はまれです。勉強の出来と頭のよさは同一でないとはいえ強い関連があるので、ここが最も簡単に判断できます。

簡単な見分け方

成績が良い→天然

成績が悪い→アホの子または天然

※精度より簡便さを重視しています。

考えているのは天然

例えば目の前にブロッコリーとカリフラワーがあるとします。「えええ、ブロッコリーとカリフラワーって同じだと思ってた。」と言っている子は天然でしょうか、アホの子でしょうか。

これだけでは分かりません。なぜそう思うのか、もう少しつっこんでみましょう。

「だって、見た目そっくりじゃないですか。モンハンでも色違い亜種の蒼いリオレウスとかいたし、そんな感じでこれも仲間かなあと。」

うーん、なんとも。一応それなりに考えているようですが、根拠にモンハンを持ってくるセンスは常識的ではないですね。とりあえずウマとシマウマくらいには違うと思います。平然とモンハンが出てくるセンスのズレからして天然かもしれません。ズレた思考回路は天然にありがちです。アホの子は多分ここまで深く考えません。「見た目が……」くらいで思考停止すると思われます。

ポジティブの背景

天然もアホの子も基本、能天気なポジティブシンキングです。でもなぜポジティブラーかというところには違いがあります。

天然の場合、気にしないからです。心配や不安はあっても、それはさほど気にすることではないものだと考えます。ネガティブ要素に重きをおかない性格です。

アホの子の場合、ネガティブ要素が見えていないです。リスクが見えない人にはリスクがないように見えます。よって不安を感じることなくポジティブに振る舞えるのです。

いい人

天然の人は悪事に興味がないです。そういう性格なのです。アホの子は不純なことができるほど頭がよくないです。あくどいことをするにはそれなりに悪知恵が必要で、アホの子にはできないのです。

結果としてどちらも悪人にはならないですが、その成り立ちはやや異なることがあります。

見分けが難しいことも

このように実はかなり異なる思考のもとにある天然とアホの子ですが外から見える行動は似ており、成績表に現れない天然やアホもいますし、そもそも成績が不明なこともあります。天然のぶっ飛んだ思考もアホの子の無思考も外部の人間に理解できない点では共通しており、両者を見分けるには長いつきあいが必要です。天然やアホの子を見かけたら、長期間じっくりと観察することをオススメします。

 

追記

明らかにアホではない天然の例として、Hさんを紹介します。

天然実録03 サンドウィッチマン

Tは天然だ。少なくとも周りの友達はそう思っていた。本人は違うように考えていて、「漫才ならどちらかというとツッコミ」と発言して周囲の猛反発を受けたりしていた。まあ本人だけ自覚がないというのはよくある話だ。

Tはちょっと常識に疎いところがあって、1年前までサンドウィッチマンを知らなかった。お笑い好きな友人に紹介されてサンドウィッチマンの漫才「ハンバーガーショップ」を見たTはいたく感動し、それからしばらくサンドウィッチマン動画を見まくった。寝る時も起きる時も見た。ふとした時に思い出し笑いをするくらいに見た。

 

1年後、Tは友達と旅行に出かけた。旅行はTが公園のシーソーで遊んでいたらメガネをなくしてこのままじゃクルマの運転ができないと困っていたところ親切な親子連れが届けてくれた程度の小さなトラブルはあったものの、総じてつつがなく順調であった。

立ち寄り湯に寄った一行は帰り道にとりとめもない雑談をしていた。誰かが誰かと付き合っているらしいとか、誰かのボケはちょっとスベっているとか、そんな話だ。そんなときDが尋ねた。

D「Tは以前自分はツッコミだと言っていたけど、最近はどうなの?」

T「うーん、最近はどちらかというとボケかな。」

D「あっ、そうなんだ。」

D(ついにTも自分が天然なことに気づいたか。)

T「最近サンドウィッチマンにハマっていてね、あれはとても面白いね。」

D「うん、そうだね。」

T「中でも富澤のボケは素晴らしい。だから富澤に匹敵する秀逸なボケができたらなと思うんだ。」

D「……」

 

 

Tはそのままでいいと思うよ。

 

こと天然の自覚において、本人の認識と周囲の認識を一致させるのは難しいことのようです。

 

おまけ - サンドウィッチマン

2人組のお笑いグループ。メンバーはボケ担当の富澤とツッコミ担当の伊達の2人。お店の店員と客という設定で漫才をやることが多い。

店員役の富澤が伊達の演じる客の前で怒濤のボケをかますハンバーガーショップ」は特に面白い。

伊達「じゃあビックバーガーセット」

富澤「ビックバーガーを1000個」

 

富澤「それでは厨房の方を振り返ります。」

伊達「注文繰り返せよ。」

 

軽快で笑えるネタがてんこ盛りだ。

 

 

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