天然実録02 ナチュラル煽り
登場人物
X:天然とされる人物。煽りの加害者。
Y:被害者。真面目かつ超優秀。
Z:XとYのクラスメイト。要領がよい天才肌。
YとZの校外学習
あるとき、校外学習でYとZは同じグループとなった。校外学習ではグループ単位で見学をして、そこで得た知見をレポートにまとめる。YとZは別行動だったが、要領のよいZはさっさと自分の担当課題をやり終えた。ちょうどそこにYから電話がかかってきた。
「今こっちで面白いものを見られるよ。ちょっと来なよ。」
Zはすぐに帰るつもりでいたのだが、せっかくの誘いを無下にするのもどうかと思いYの誘いに乗ることにした。しかしそれはZの予定を大いに狂わせることとなり、Zは4時間以上帰れなかった。
翌日の学校
翌日、Zは学校で昨日の「悲劇」を友人にぶちまけた。聞き手にはXもいて、彼はZの話を聞いて驚いた。Xも校外学習にしっかりと取り組む方だったが、YとZの帰宅時間はそのXからしても考えられないくらい遅かった。XはZのエピソードに驚きつつ、しかしこうも考えた。
(真面目なYと要領のよいZでは行動原理が全く異なるからなぁ。)
Zの話にZ視点の偏りがあるのは事実だった。本当のところYが何を考えどんな生活を送っているのかに興味を持ったXは、この事件の真相に近づくためにY本人からも話を聞いてみようと思った。
X、Yに突撃
数日後の放課後、ついにXはYと話す機会を得た。Yの生態を知りたくてウズウズしていたXは挨拶を手短に済ませると早速切り出した。
X「最近、熱心に頑張ってるんだって?」
Y「いや、別にそんなことないよ。ふつうだよ。」
X「こないだも遅くまで校外学習したみたいだし。」
Y「そうだったかな。」
X「今日もこんなに遅い時間まで勉強するなんてすごいね。」
Y「そうでもないよ。次の校外学習に備えて予習をしていただけだよ。」
X「予習!ひえぇ、そんなことまでしてたのか。」
Y「まあできるだけ色々学びたいし、当然かな。そんな特別なことではないよ。」
X(いやいや、ふつうそんなに勉強熱心にならないぞ。)
その後XとYは自分たちの将来像や今後伸びていくであろう業界などについて30分くらい意見を交わして解散した。
1年後
それから1年以上が経過し、XとZのグループは食事会をした。
「そういえば昔、Yと校外学習に行ったんだけど…」
Zが昔を懐かしんで語る。周りの友人も、やっぱりYってすごいんだな、でもZにはちょっと災難だったね、と思いながら聞いていたところ、Xが口を開く。
「そういえば今まで言い忘れてたけど、その話を聞いてからYに会いに行ったことがあるんだ。」
1年越しに明かされるXとYのやりとり。その際のXのあんまりな台詞に友人たちは思わず叫んだ。
「それ、めちゃ煽ってるじゃん!」
X「えっ?」
煽ってるつもりはまったくなかったXだった。
前回:ジャポニカ米
次回:サンドウィッチマン
天然あるある - 独創性編
前回の続きです。
ただのいい人では終わらない、ちょっと常人には真似できない「すごさ」を持っているのも、天然あるあるです。
地味にハイスペック
「ハイスペック」とは、元は機器の性能が高いことを意味していましたが、転じて優秀な人を指します。天然な人の中には、隠れハイスペック人間が混じっています。
実は音楽の才能がハンパなくてあちこちの楽団からスカウトされていたり、実はゲームの才能がずば抜けていて無課金なのに世界ランク1位だったり、実はノートを取るのが得意でテスト前になると美しく完璧なまとめプリントを共有してクラス中を感動させたりと、非凡な才能を見せつけてくれます。
すごい人というのはそれだけで尊敬に値するのですが、彼らはそれを鼻にかけることをしないので好感度は増し増しです。
そして天然にありがちな残念エピソードがついてくるのも恒例で、あちこちの楽団からのスカウトに応じていたらプライベートの時間が消失しそうになったり、ゲームで世界ランク1位を取ったはいいが寝不足で数日間体調不良になったり、まとめプリントに時間をかけすぎて自分の勉強が間に合わず試験に落ちたり。
……要領が悪いんですかね。
追記)天然とアホの子の違いを整理しました。
発想が独特
天然の人は概して一般常識に疎いところがありますが、裏を返せば一般常識にとらわれない思考ができるともいえます。
彼らは独自の理論に依っており、そこから普通では思いつかない結論に至ります。傍目には突拍子もない発言に見えても、頭の中ではつながっているのです。ここが「アホの子」とは決定的に違うところで、天然の人はちゃんと考えています。時には思わず「天才か」と目を見張るような素晴らしい着想に至ることもあります。ところが笑っちゃうような着想のときがその何倍も多く、残念ながら彼らはやっぱり天然なのでした。
いずれにせよ彼らは常識の枠を超えて羽ばたく力を持っています。
この威力は具体例がないと説明しにくいものなので、後日実例を交えて紹介したいと思います。
空気を読まない
日本人は空気を読むのが得意とされています。空気を読めない人が「KY」と揶揄された時代もありましたが、空気を読むことはそれだけ重要なスキルなのでしょう。多くの日本人は学校、会社、友人関係など社会生活を送りながら、世界トップクラスの空気を読む力を身につけます。
しかし何事にも例外はあるもので、天然の人は空気を読みません。空気を読まない俺カッケーとかではなく、特に意図せず空気を読まないのです。空気に対する感受性が低いのでしょうか。
無意識に空気を読める多数派の日本人のほうがすごいという説もありますが、多数派からすれば空気を読まない天然の人ってすごいなとなります。
強い意思を持っている
天然の人はぼんやりとしているように見えて、案外強い意思を持っています。雰囲気に流されて、みたいなことはないです。
例えば自分の中にはっきりとした好き嫌いの基準があり、嫌いなものは頑として受けつけません。タバコが嫌いな人は友人が目の前で喫煙を始めると必ずやめてくれと言いますし、賭け事が嫌いな人は賭けの話が出た瞬間にゲームを降ります。
たまに説得に難渋することもありますが、自分をしっかりと持つ人は尊敬に値します。こういう芯の強いところが、将来大物に化けるかもしれません。
天然あるある - 好感度編
本物の天然はすべからく好かれる。そんな彼らの好感度高いポイントとは。
穏やか
基本的にいつも穏やかです。機嫌の良しあしで落差がある人は付き合いにくいですが、彼らはいつも穏やかです。相手の機嫌を伺ってビクビクすることがないので、実に付き合いやすい相手です。彼らは怒るということを知らないのかもしれません。不満を言うときも怒鳴るのではなく淡々とした語り口です。穏やかに不満を述べるのは、地味ながら高等テクなのではないでしょうか。
いい人
天然の人はいい人です。人が幸せになることに喜びを見出し他人のために行動します。何か見返りを求めての行動ではなく純粋な親切です。また彼らは性善説を信奉しており、人間はたいていの場合いい人だと思っています。悪い噂が囁かれる人に対しても避けることなく接します。
嘘をつくことは少なく、数少ない嘘は他者への思いやりから発されるものが多くを占めます。むしろ正直者すぎてトラブルを引き起こすことが多いです。
悪だくみを働くなんてこともしません。他人を貶めることには興味がなく、そんなことをする意味がないと思っています。本当に、他人が不幸になるより他人が幸せになるほうがよいと考える人間なのです。
分け隔てがない
どんな人にも誠実に接するのは難しいものです。上司には媚びへつらって取り入り、生意気な後輩には尊大な態度で接し、変人は遠巻きに眺めるだけでコミュニケーションをシャットアウト。そういうこともあります。人間だもの。
でもそういうことをしない素晴らしい人もいます。天然の人たちは、どちらかというと後者の「素晴らしい人」群に属します。彼らの行動原理は未解明ですが、おそらく自分の評価と自尊心よりも大切な何かがあるのでしょう。
皆に平等に接する人は美しく、好感が持てます。
純粋
冗談が通じなくて困ることもありますが、それほど素直な人たちです。周りの発言を基本的に字面通りに受けとります。冗談は通じても、皮肉はまず通じないでしょう。ただ、行間が読めないわけではないので安心してください。政府新方針の裏の意味を推測したり、詐欺電話に反応して危険を回避したりはできます。
特に純粋さが際立つのが発言です。「かわいいね」って声をかけると、「うんありがとう」って言ってうれしそうにしています。もしくは「そんなことはない」と不満げです。
本当は自分かわいいと思っているのにわざと「えっそんなにかわいくないよぉ」と否定してみるみたいなまどろっこしいことはしません。基本自らの感情に素直なのです。好きなものに好きと言うのはもちろん、嫌いなものには嫌いと言います。
口だけでなく非言語の反応も素直で、嬉しいときは見るからに嬉しそうな雰囲気を漂わせ、嫌いなことへは全身から不快そうなオーラを出します。
彼らの、裏表なく人生を全力で生きている生きざまは、自然と応援したくなります。
ポジティブラー
前向きな人です。そのままですね。
いつも何やら楽しそうにしています。つらいことは笑い話にして、不満は自らを成長する糧として、彼らは前を向いて歩き続けます。実際にはそんなに高尚な人間ではないのかもしれないし本人の中では葛藤があるのでしょうが、少なくとも傍目にはそう見えます。
彼らの楽しいオーラや幸せオーラに長期間触れていると、こちらも幸せになるような錯覚を覚えます。天然は幸せの発信源です。
真面目
彼らはいたって真面目です。人生において真面目であることは大事です。周囲の信用がアップします。何か問題が発生したとき、真面目な人にお願いしたらしっかりと対処してくれそうな気がします。この人になら任せられる、この人なら信頼できる、そんなふうに感じます。
真面目な人がつまらないということはあっても、真面目な人が嫌いというのはあまりないです。
天然あるある - 独創性編に続きます。
天然実録01 ジャポニカ米
麺類が大好きなAが、先輩の職場を訪ねた。2週間行動をともにし、お昼は一緒に食堂へ入った。食堂ではラーメン、そば、うどん、さらにやきそばや素麺も売られていて、Aは日替わりで違う種類の麺を選んで食べていた。
9日目の食堂で先輩はAにお昼をご馳走しようとして尋ねた。
先「今日は何にする?」
A「魚定食にします。」
先「おや、珍しく麺じゃないんだ。米類は初めてなんじゃない?」
A「実は4日目にチャーハンを食べました。でも、ジャポニカ米は初めてですね。」
先「ジャポニカ米 (笑)」
予想外のタイミングで飛び出した「ジャポニカ米」という言葉。
ジャポニカ米に場の空気を全て持っていかれ、
先「あれ、何を注文するんだっけ。」
先輩は一瞬、頭をジャポニカ米に占領されてしまったのでした。
おまけ ジャポニカ米とインディカ米
お米には2種類あって、丸くてもっちりとしたジャポニカ米と、細長くてさらっとしたインディカ米に分けられます。日本で米といえばふつうはジャポニカ米です。ごはんももちろんジャポニカ米です。インディカ米はピラフなど外国の料理でよく使われます。タイ米みたいなお米です。
次回:ナチュラル煽り
シリーズ 天然実録
研究にあたってはサンプル集めが大事。実際にあった天然エピソードを集めてみました。
身近な人が実際に起こした出来事で、すべての事例は自ら現場に居合わせて記録しています。なお匿名化のため、名前や背景設定の一部に修正を行っている場合があります。
カテゴリ「天然実録」で探してみてください。
好かれるから天然になれる
好かれるから天然になれる
以前、天然は拡大解釈された結果、好感度が重要だということを述べました。ここから、天然たりうる必要条件が1つ浮かび上がってきます。それは、「好かれていること」です。
どういうことか。同じ珍行動でも非常識で無能や面倒くさい人と言われる場合もあれば、微笑ましい天然エピソードとして語られることもあります。元となる行動が同じなのにどうしてこれほど評価が分かれるのか。この差は、その人が普段どう思われているかによるものです。もともと嫌われがちな人が奇行に及んでもそれはただの奇行ですが、これが好感度の高い人だったなら憎めないところがあり、天然として愛されるのです。
では、元々好かれている人だと珍行動でも許せるのはなぜかというと、要するに「あばたもえくぼ」です。好きな人のことだと欠点までもいとおしく感じるのが、人間の特性なのでしょう。人間はそういうものです。
天然に対する言説も説明される
ちなみに、この「好かれている人が天然になる」という仮説を受け入れると、色々なことがすっきりとしてきます。
よく天然の人の特徴として挙げられる「ポジティブ」「悪口を言わない」「分け隔てがない」「一生懸命」などは、どれも好感度の高い行為です。もともと好感度の高い人に現れたツッコミ所が天然なのです 。
また、「本物の天然は好かれるが、偽物は嫌われる」という説も理解しやすくなります。普段好かれるわけでもないのに天然のフリをして甘い汁を吸おうなんてムシのいい話は認められないでしょう。
「天然はかわいい」という意見にも関わってくるでしょう。だって、天然もかわいいも好感に基づく評価ですから。
天然の拡大
天然は元々「天然ボケ」が短くなった言葉だと考えられています。従って、お笑いのボケのような面白さが求められるはずです。しかし現在では、天然はもっと広い意味で使われているように思われます。実は今、天然人気に乗って言葉の解釈が広くなっているのです。
天然の拡大
最近では、何か少し変なことを言うとすぐに天然扱いされます。ネットニュースの記事を見ていれば、実に多くの天然に出会います。「注目の芸能人、天然発言にスタジオ騒然」「某選手の天然インタビュー」「初勝利後、監督の天然会見」など、少しアンテナを張っていればすぐに見つかります。しかしよく記事を読むと、天然というよりもただちょっと変わったことを言っただけということが多いです。少しでも涙を流すとすぐに「号泣」と表現されてしまうように、元の意味よりもかなり簡単に天然という言葉も使われています。
重要なのは好感
ではちょっと変わった発言が全て天然なのかというとそうではなく、発言に対してプラスの感情を抱いた時、それが天然と呼ばれるように思えます。今、天然は「ちょっと変わっている+好感を持てる発言」という意味に拡大されていると言えるでしょう。何に対して好感を持つかというと、発言内容そのものであったり、発言している人の人気を反映していたりです。発言者に対する好感度は意外と重要で、同じことを言っても天然発言ともてはやされるか、炎上するかが変わります。
天然に対して人々が好感を持っていることから、このように語意が派生したのではないでしょうか。それにしても語意にまで影響を及ぼすほどの人気を誇るとは、天然もなかなか大したものです。
ちなみにこれがネガティブな意味に捉えられるときは、「変人」「非常識」「DQN(ドキュン)」「問題発言」「炎上案件」「事案」「物議」などの言葉で表現されます。
おまけ:号泣
号泣は、大声で泣く、の意味です。元兵庫県議会の野々村議員の号泣会見が典型的な号泣です。よく映画館で感動して号泣したという話を聞きますが、涙を流したくらいなら号泣ではありません。もし本当に号泣したのなら、周りのお客様のご迷惑となりますので、ご配慮いただきますようお願いします。